福岡でのカウンセリングという大きな節目を終え、「相手を変えることはできない。できることは、自分を変えることだけだ」と心に誓った帰り道。新幹線の窓の外を流れる夜景を見つめながら、私の胸にはほんの少しだけ、暗闇の中に一筋の光が見えたような気がしていました。
「家族が一番大事だと思う」
カウンセリングの中で妻の口から出たその言葉を、私はお守りのように何度も頭の中で反芻していました。
しかし、現実の夫婦再構築という道は、そう簡単にはいきません。 自宅という元の空間に戻り、当たり前の日常が再開した途端、私は再び間男の影と、自分自身の「不安や恐れ」という底なしの沼に引きずり込まれることになります。今回は、前進したはずの直後に、私がついやらかしてしまった「失敗行動」と、寝室でのリアルな対話を隠さずにお話しします。

戻ってきた日常と、ちょっと遠い距離感
仕事が再開し、昼間は互いに何事もないかのように日常のタスクをこなす日々。しかし、夜になり家の中が静まり返ると、昼間の平穏な仮面は少しずつ剥がれ落ちていきます。
リビングのソファーで、ただ黙々とスマホの画面を見つめている妻。 その横顔を見るたびに、私の心臓は嫌な音を立てて脈打ち始めます。 (あの画面の向こうに、まだ間男がいるんじゃないか。また私の知らないところで、繋がっているんじゃないか……)
一度考え始めると、胸の奥をギリギリと締め付けられるような焦燥感が這い上がり、息を吸うことさえ苦しくなっていきました。
その日の夜、寝室の明かりを消し、布団に入ったときのことです。 横たわる妻の気配が、いつもよりひどく遠くに感じられました。「確かめたい、安心したい」という抑えきれない衝動に駆られ、私は暗闇の中でそっと妻の体に近づき、手を伸ばしました。
ほんの少し、指先が触れるか触れないかという距離。
その瞬間、妻はあからさまに身を固くし、嫌そうなそぶりを見せて、私からすっと離れて布団を引き直したのです。
暗闇の中で、ドクンと心臓が跳ね上がりました。
頭の芯が急激に熱くなり、脳裏にどす黒いフラッシュバックが駆け巡ります。 (やっぱり嘘だったんだ。家族が一番なんて言っておきながら、気持ちはまだあの間男の方に向いているんだ……)
傷つきたくない。でも、妻の口から「そんなことないよ」という否定の言葉が欲しくてたまらない。感情の暴走を止められなくなった私は、暗闇の静寂を破り、余計な言葉を口にしてしまいました。
「……嫌なの?」
妻は何も答えません。拒絶の沈黙だけが部屋を満たしていました。 耐え切れなくなった私は、さらに言葉を重ねてしまいます。
「こんなこと、いつまで続けることができるんかな……」
やはり、妻からの返答はありませんでした。その徹底した沈黙が、私のなかの不安をさらに大きくしていきました。
つい出ちゃった「職場を変えようかな」という本音と試し
妻の反応が欲しい。 怒ってもいい、泣いてもいいから、とにかく私の方を向いて、私を安心させる言葉をくれないだろうか。
張り詰めた沈黙の恐怖をなんとかしたくて、私はさらに余計な一言を重ねてしまいました。
「……職場を変えようかな」
それは、本心から出た言葉ではありませんでした。 本当に仕事を辞めたいわけでも、環境を変えたいわけでもない。「そんなこと言わないで」「ここにいて」と、妻に繋ぎ止められたくて、すがりつきたくて放った、ただの「試し行動」でした。自尊心を失い、弱り切った私は、妻から安心を奪い取ろうとする物乞いのようになっていたのです。
私のその言葉を聞いた瞬間、それまで頑なに沈黙を守っていた妻が、暗闇の中で低く、冷たい声を上げました。
「はぁ?……どうするの? それ、別居するってこと?」
感情的に怒鳴り散らすようなトーンではありません。だからこそ、その静かで冷徹な響きが、余計に部屋の空気を凍りつかせました。
「……こんな気分で日々過ごすのは、苦しすぎるから。逃げてしまいたい。離れて暮らすことも、考えてる」
必死に冷静さを装ってそう答える私の心臓は、破裂しそうなほど激しく波打っていました。 本当は逃げたくなんてない。離れたくなんてない。 ただ、「行かないで」という妻の引き留める言葉が欲しいだけなのに、私の口から出るのは、関係をさらにこじらせるような言葉ばかりでした。
「どうするの?」と問い詰めてくる妻の視線を暗闇の中に感じながら、私は自分がとんでもない失敗行動を犯していることに、薄々気づいていました。
福岡でのカウンセリングで「ベキ思考」を手放し、自分のこだわりを捨てて妻に向き合うと決めたはずなのに、現実の拒絶を前にした私は、またしても「極端な脅し」を使って、力ずくで妻の心をコントロールしようとしていたのです。
この夜の試し行動が、この直後に起こる「さらなる嘘のあばき合い」という修羅場の引き金になるとは、この時の私はまだ知る由もありませんでした。
サレ夫・サレ妻のあなたへ
なぜ「試し行動」をしちゃうのか?
今回の私のように、パートナーの態度に一喜一憂し、「もう別居しようか」「職場を変えて遠くに行こうか」といった極端な言葉を投げかけてしまうサレ夫・サレ妻の方は非常に多いです。
これを心理学では「試し行動」と言います。
裏切られ、プライドを粉々にされた私たちが、「自分を必要としてほしい」「愛されている実感がほしい」と飢え死にしそうになりながら放つ、SOSの叫びでもあります。ですから、こうなってしまう自分をどうか責めないでください。
試し行動がもたらす「残念な結果」
しかし、夫婦関係を本気で修復していきたいのであれば、この試し行動はちょっとお休みしたほうが安全です。
なぜなら、不倫の渦中で心が混乱し、罪悪感や葛藤で潰れそうになっているパートナーに対して、さらに「重い決断」を迫る行為だからです。相手からすれば、追い詰められてさらに心が冷え込み、「そこまで苦しいなら、もう離れるしかないのかな」と、修復を諦める方向へと背中を押してしまう結果になりかねません。
今、夜の寝室で、あるいは日常のLINEのやり取りの中で、不安に押しつぶされそうになり、相手を試すような言葉が口から出そうになっているあなたへ。
どうか、その言葉を一度、ごくりと飲み込んでみてください。
あなたが本当に求めているのは、相手を困らせることでも、別居の約束を取り付けることでもないはずです。あなた自身が「安心して、笑顔で過ごせる日々」のはずです。
相手の反応を力ずくでコントロールしようとすればするほど、相手はすり抜けて遠くへ行こうとします。 まずはゆっくりと深呼吸をして、傷つき、暴れそうになっているあなた自身の「内面の不安」を、あなた自身が静かに受け止めてあげてくださいね。
この夜、試し行動で自爆した私が、ここからどうやってさらなる嘘の泥沼に直面し、そしてどうやって「自分を変える軸」へと舵を切っていったのか。
まずは今夜、あなたが少しでもリラックスして、深い眠りにつけますように。
今回もお読みいただき有難うございました。


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